IMI Project Files

九州大学 
マス・フォア・インダストリ研究所の挑戦

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NO.03

河原研究室

AIに時間を学ばせ、未来を予測
医療・介護支援や災害予測など、
拡がるその応用領域

モノの本質的な情報を蓄積できるヒトの脳

「私たちヒトは、犬を見た時、それが柴犬なのか秋田犬なのかは見分けられなかったとしても、おおよそ犬だと認識できますよね。猫と見間違うことはほぼありません。ヒトの脳は、過去の経験から得た犬の『本質的な情報』を抽象化して蓄積しています。瞬時に判断できるのは、対象を見ると、自動的に脳内の情報とその対象を照合して判断しているからです」。

「一方、AI(人工知能)=機械学習にもこれと同じようなことが簡単にできるかと言えば、そうはいきません。なぜならば、ヒトにとっての『過去の経験』に相当するのは機械学習では『データ』になりますが、私たちが日々遭遇するさまざまなケースを事前に想定して計算機上にプログラミングすることは、原理的に不可能だからです」。

計算機上で「汎化」を目指すのが、機械学習

「こうしたヒトの能力を、生物学的には『汎化』と言います。そして機械学習とは、この汎化のような力を計算機上で実現するための情報技術を指しています」。
「ただしここでいう能力は、ヒトが個体全体で実現している汎用的なものではありません。先の写真の例のように、視覚や聴覚といった個別の認知機能を指しています」。

機械学習の役割

機械学習を構成する3つの要素

「機械学習は、大きく3つの要素から構成されています。画像に何が写っているのかを認識するといった何らかの機能を求めるなら、次の3つの要素を計算機に与えねばなりません」。

機械学習を構成する3つの要素

  • ① モデリング
    問題を定式化=数学的な記述を与える
  • ② アルゴリズム
    定式化した問題を具体的に解くために、解法(手法)を開発する
  • ③ 学習理論
    その解法の正当性を数学的に保証するために、結果を解析する

「この3つはいずれも、線形代数や確率・統計をはじめ、関数解析、幾何・代数的解析といったあらゆる数学・数理科学の道具を駆使してアプローチします」。

時間の「動き」から未来を予測する

河原教授が専門とするのは、「ダイナミクス」と呼ばれる分野だ。ダイナミクス(dynamics)とは「力学・動く仕組み」を意味する。そして、河原教授が取り組んでいる動きは「時間」だ。

「わかりやすく言えば、『過去から未来を予測する機能の開発』です」。
「時間の経過とともに獲得できるデータを『時系列データ』と言います。そのデータの一つひとつは、ある瞬間をとらえた『点』に過ぎません。しかしその点が連続すれば『線』となり、線になれば『流れ』がわかります。その流れからは、昇降の角度(スピード)や波の規則性(周期)などがわかる。それを読み解けばこの先何が起きうるのか?の大まかな予測をつけることができます。これが『ダイナミクス』の考え方の基本です」。

応用領域が広いダイナミクス、同時に未知も

このダイナミクスを応用できる分野は、限りなく広い。しかし、そのメリットを得るためには、まだまだ多くの課題も残してもいると言う。

「たとえば、AIブームの火付け役と言ってもいい『深層学習』。いまの技術でも一定レベル使えるものにはなっていますが、それ以上にたくさんのできないことがある。いまは『なぜか』うまくいっていますが、その実、理論構築もできていません。つまり積み残していることや改善の余地だらけということです」。

ダイナミクスの応用範囲と実現時期(一部)

現在、河原教授が関わる研究開発を見てみよう。

介護補助
(株式会社 アプリズムとの共同開発)

AI開発会社・アプリズムと共同し、介護現場の作業効率化を目的として、AIアルゴリズムを活用した介護ソリューションを研究開発。

介護施設では、要介護者への対応が必要なインシデントが1日に複数回発生している。このソリューションは、機械学習を用いたセンシング技術によって、プライバシーに配慮しながら要介護者の状態をリアルタイムに確認でき、異常発生時にはアラート情報を送信。要介護者の室内、施設内での離床や転倒などを事前に検知。アラート情報は自動記録・保存され、介護現場の業務効率化とタイムリーなデータ共有が可能になる。

脳波解析
(株式会社 国際電気通信基礎技術研究所との共同研究)

産官学が連携した研究機関・国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と共同した研究開発。機械学習で脳波のパターンを学習しておき、その波形などから次に何をしたいか? どう動くか? などを予測する。サッカーやラグビーなどのチーム競技のフォーメ―ショントレーニングなど、スポーツ科学での応用が見込まれる。

これは「ブレインコンピュータインターフェイス」と呼ばれる研究分野で、この延長線上には、医療や介護への応用も期待されている。

認知症などの病気やけがで、脳機能障害、四肢障害などが起きた患者さんの脳波を読み取り、次にしたいこと・してほしいことを予測したり、目で追った文字を自動入力したりすることで、コミュニケーション支援が行える。

圧倒的に不足する「高度数学・数理人材」

「私が専門とする機械学習分野を見渡しても、いま世界の中での日本のプレゼンスはすごく小さい。近年になって、国も高度数学・数理人材育成施策を講じ始め、全国の大学でもデータサイエンス学部や情報学部などの新設が増えてきました。少しは裾野が広がっていますが、欧米や中国などと比べるとまだまだ。人材が圧倒的に不足しており、今後の見通しも決して明るくありません」。

IMIは『日本産業数学のフラグシップ』に!

「そもそも、欧米では『産業数学』系学部・学科や研究所は一般化していますが、それに対して日本では数える程度しかありません。その中にあっては、IMIはそこに先駆けてきた研究機関であり、設立10年を超えて実績も積み上がってきました」。

「さらに次年度からは、産業数理統計研究部門という新たな部門もできます。IMIは『日本産業数学のフラグシップ』にならないといけない。まさにそれが、このIMIのミッションだと思います」。

マス・フォア・インダストリ研究所
産業数理統計研究部門 部門長、数理計算インテリジェント社会実装推進部門(兼任)

教授

河原 吉伸

Yoshinobu Kawahara

<学位>
博士(工学)(東京大学)
<専門分野>
機械学習、データ科学
<略歴>
2007年4月 - 2008年3月
日本学術振興会 特別研究員
2008年4月 - 2009年9月
東京工業大学 グローバルCOE 研究員
2009年10月 - 2013年3月
大阪大学 産業科学研究所 助教
2010年5月 - 2010年10月
Max Planck Institute for Intelligent Systems 客員研究員
2010年10月 - 2014年3月
科学技術振興機構 さきがけ「知の創生と情報社会」領域 研究員
2013年7月 - 2014年7月
University of Washington, Seattle 客員教員
2013年4月 - 2019年3月
大阪大学 産業科学研究所 准教授
2016年9月 - (継続中)
理化学研究所 革新知能統合研究センター チームリーダー
2018年4月 - 2019年3月
神戸大学 大学院システム情報学研究科(知能統合講座) 客員准教授
2019年4月 - (継続中)
神戸大学 大学院システム情報学研究科(知能統合講座) 客員教授
2019年4月 - (継続中)
九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 教授
<受賞>
2010年12月
人工知能学会2011年度論文賞
2014年12月
NIPS 2014 Outstanding Reviewer Award
2019年7月
IJCNN 2019 Best Student Paper Award
2020年4月
令和2年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2020年7月
日本顕微鏡学会 第35回 (2020年度) 論文賞
2020年9月
日本神経回路学会 2020年度 論文賞
2021年6月
人工知能学会2020年度論文賞

他多数

※掲載情報は、2022年4月1日時点のものです。